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クリエイティブとはなにか?川上量生がスタジオジブリで考えたこと。『コンテンツの秘密 ぼくがジブリで考えたこと』【本感想】

 

 「ニコニコ動画」を運営する株式会社ドワンゴ代表取締役会長の川上量生は、現在ほとんどドワンゴに出社していない。なんと週に一日、水曜日だけだという。代表取締役会長なのに!では、残りの時間で何をやっているのか?スタジオジブリでプロデューサー見習いをしているのだ。「ニコニコ動画」というメディアを運営する側から、「スタジオジブリ」というコンテンツを作成する側に移った、川上量生が「コンテンツとは何か」という問いに答えを出したのが、本作の『コンテンツの秘密 ぼくがジブリで考えたこと』である

 

 スタジオジブリには、もちろん、あの世界的なアニメーション監督の宮崎駿さんがいらっしゃいます。はじめてスタジオジブリの東小金井のスタジオに出社すると。鈴木敏夫さんに案内されて宮崎駿さんのアトリエ「二馬力」を訪れました。

 そこで宮崎駿さんの目の前に座るなり、ジロリと睨まれて言われた台詞は一生忘れられません。

 「なにしにきた。ここにはなにもないぞ」

(出典:『コンテンツの秘密 ぼくがジブリで考えたこと』)

 

コンテンツは一部の天才が作り上げるものなのか?

 コンテンツをめぐる議論の一つに、「オリジナリティあふれる面白いコンテンツは天才にしか作れない」との考え方がある。宮崎駿や高畑勲、庵野秀明など、トップクリエイターたちがいる。彼らはどのように大ヒットコンテンツを生み出しているのか?オリジナリティあふれる面白いコンテンツは、彼らにしか作れないのだろうか?

  川上さんは、オリジナリティなど存在せず、一種のパターンの組み合わせがオリジナリティの正体だという。例えば、「小説家になろう」という、小説投稿サイトがある。ここで上位にランクインする小説のほとんどが「異世界転生系」の物語だという。パッとしない人生を歩んできた主人公が、現実世界で死ぬことで生まれ変わり、変わって冒険的な生き方をする。こんな物語が流行っている。

 本来、小説投稿サイトには高い自由度があるはずである。編集者もいなければ出版社もいない。作品内の全てを自身で制御することができ、そこには数多くのオリジナリティあふれる作品が生まれるはずだ。

 しかし、現実はそうはならない。小説投稿サイトでもワンパターンな物語が流行ってしまうという。これは、結局ユーザーが求めるパターンがそう多くはないことに由来するという。ユーザーはそこまでオリジナリティあふれる作品を求めていないのだ。そして、いずれそのパターンは飽きられ、次のパターンへと向かう。

 この理論でいくと、最近、「KADOKAWA」と「はてな」によりオープンした「カクヨミ」では、また新しいパターンが流行るかもしれない。

 

天才は既存のパターンをずらしている

 凡人でも天才でも、結局パターンに影響を受ける面での違いはないと、川上さんは考える。しかし、ユーザーは、今までに見たことのない「オリジナリティ」あふれる作品だと感じる。これは、天才たちが今までに存在するパターンを「ずらして」コンテンツを作るからだという。川上さんは、天才クリエイターは、「既存のパターンをずらして、組み合わせ、新しくみえるパターン」を生み出せる人々だと考える。それにより、私たちユーザーは、全く新しいものだと錯覚してしあうのだ。

 この感覚は天性の部分も大きくあり、やはり誰にでも「オリジナリティあふれる面白いコンテンツ」を作りだせる訳ではないだろう。

 

 このように、川上量生さんが、あらゆる角度から「コンテンツとは何か」との問いに答えを導き出しているのが、『コンテンツの秘密』である。川上さんは、アニメ業界では凡人である。そんな川上さんの考える「コンテンツ論」はかなり興味深いものとなっている。

 また、鈴木敏夫を始めとするスタジオジブリの面々や、スタジオジブリの裏話に興味がある人にも面白い内容となっているだろう。『コンテンツの秘密』を読めば、コンテンツの見方が変わるだろう。