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五感の全てを奪われた。残ったのは右腕の皮膚感覚のみだった「失はれる物語」【小説感想】

 

目覚めると、私は闇の中にいた。

交通事故により全身不随のうえ音も視覚も、五感の全てを奪われていたのだ。

残ったのは右腕の皮膚感覚のみ。

ピアニストの妻はその腕を鍵盤に見たて、日々の想いを演奏で伝えることを思いつく。

唯一の感覚で毎日感じる妻の思い。

それは、永劫の囚人となった私の唯一の救いとなるが……。

表題作の「失はれる物語」を始めとする全8編が収録される小説家・乙一による短編集。

ミステリー作や感動的な物語が含まれている。

 

「失はれる物語」のここが面白い

”傷”を引き受けることができる少年「傷」

オレが通っていた小学校には特殊学級というものがあった。

生まれつき頭が弱い子など問題のある生徒たちが集められ、まとめてそこで授業を受けていた。

オレもまた、からかわれたことを原因として”異常”な暴力をふるってしまい特殊学級へと送られることになる。

そんな教室にアサトは転校してきた。

アサトには、他人の傷を自分に移し、自分の傷を他人に移せる能力があった。

優しいアサトは、機会があれば他人の傷を自分へと受け入れてしまっていた。

このままではアサトだけが苦しい思いをし続けることになってしまう。

オレはアサトの傷を捨てる理想の場所を思いついた...。

 

頭の中で着信音が「Calling You」

わたしはたぶん高校で唯一、携帯電話を持っていない女子高生だ。

校則で禁止されているけど、携帯ぐらい誰でももっている。

携帯が欲しくて仕方がない...。着信のメロディーが流れるたびに取り残された気分になってしまう。

そんな風に毎日、毎日、狂ったように携帯電話のことを考えていると、あるとき、自分の頭の中で着信を知らせるメロディーが流れ始めた。

うそだ。何かの間違いだ。

そんなことありえないはずなのだが、イメージの世界で実在しない携帯電話を操作すると、男の子の声が聞こえてきた...。

 

見つからない婚約者の指「マリアの指」

姉の友達の鳴海マリアは電車にひかれて、無数の小さな塊となってしまった。

体のほとんどの部分は回収されて埋葬されたのだが、何の因果か僕は鳴海マリアの指を拾うことになる。

僕は、学校の理科室で盗んできたホルマリンを使ってこの指をホルマリン漬けにする。

こうすれば、指は絶対に腐らないはずである。

鳴海マリアが死んだ現場で、不審な男を見つけた。彼は鳴海マリアの婚約者でまだ見つかっていないこの指を探しているのだと言う。

僕は僕の持っている指のことを隠したまま、彼の指探しを手伝い始めることになった。

 

終わりに

 少し変わった怖さを感じる設定の裏に、謎や涙がある物語の数々を収録した短編集『失はれる物語』。

ミステリーもあれば感動作もある。

乙一による小説で、なんとも言えない”独特”な読後感を味わえる。

不思議な世界感に浸りたい人にはおすすめの短編集である。

 

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