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正義感・冗舌・不思議な論理、陣内という一人の男に着目した短編集『チルドレン』【小説感想】

 

「俺たちは奇跡を起こすんだ」

独自の正義感を持ち、いつも周囲を自分のペースに引き込むが、なぜか憎めない男、陣内。

彼を中心にして起こる不思議な事件の数々が描かれる物語がこの『チルドレン』である。

「銀行強盗」「家庭裁判所」「盲目の青年」「女子高生」「離婚」などをキーワードに何気ない日常に起こった5つの事件が、一つになったとき、予想もしない奇跡が降り注ぐ。

伊坂幸太郎によるちょっとファニーで、心温まる連作短編となっている。

それぞれの短編にミステリーの要素も含まれている。 

 

「チルドレン」のここが面白い

銀行強盗に巻き込まれたとき

この物語の主役・陣内とその友人・鴨居は、銀行へと駆け込んで行った。

銀行の営業時間の3時を過ぎてシャッターも下り始めていたのだが、なんとか滑り込んでやるべきことを終わらせようとする。

もちろん、ギリギリアウトで銀行に入った自分たちが最後の客かと思いきや、その後にもひと組の客がいた。

”銀行強盗”。

銃を持った彼らにより、陣内と鴨居は人質になってしまった。

無茶苦茶なキャラの陣内によって銃が発砲されてしまったりと大変なことになるのだが、実はこの「銀行強盗」にはとある秘密が隠されていた。

このときに、この後の物語でも登場する盲目の青年・永瀬とも出会うことになる。

 

家裁調査官としての事件

陣内は家裁の調査官をすることになる。

彼の後輩で同じく家裁調査官の武藤は、陣内の無茶苦茶な論理にいつも振り回されている。

武藤は少年たちの担当をしていた。

陣内曰く、「家裁の調査官がサラリーマンよりも多く経験できるのは、裏切られること」。

武藤もいつも少年たちに裏切られてばかりだった。

そんな彼は、木原志朗というマンガ本を万引きした少年を担当することになる。

だが、この少年との関わりの中で、「万引き事件」や「親子関係」の問題以上のとんでもない大きな事件に関わることになってしまった。

 

ベンチに座って気づいたこと

盲目の青年・永瀬は、彼女の優香とともに仙台駅前のベンチで陣内おしゃべりに付き合わされていた。

陣内はいつも以上に冗舌で、その話はいつまでも尽きなかった。

実は陣内は、数時間前に失恋をしたばかりだった。

永瀬と優香が、この日に呼び出されたのも彼の告白に関わることであった。

そして、陣内がフラれてベンチに座り2時間が経過した。

このとき陣内が、自分たちは駅前のベンチに2時間も座っているという異常なことをしているのにも関わらず、自分たちの周りにいる人々の顔ぶれが一切変わっていないことに気がつく。

彼らは一体何をしているのか?

この気づきから、一つの事件の存在が発覚することになる。

 

終わりに

伊坂幸太郎による少しファニーな短編小説『チルドレン』。 

冗舌で不思議な論理を振りかざす男・陣内。

「銀行強盗」「家庭裁判所」「盲目の青年」「女子高生」「離婚」などをキーワードとした物語で、陣内に関わる5つの事件が描かれている。

それぞれの短編にミステリーの要素も含まれている。

陣内という一人の男に焦点を合わせた、伊坂幸太郎による小説を読んでみたい人にはオススメの物語となっている。