
”この国の「大人たち」は、いつもどこかズレている”。『絶望の国の幸福な若者たち』で若者論を書き、若者の書く若者論として注目を集めた。そんな古市さんが国や企業の偉い人たち、つまり「おじさん」たちの考え方ってなんかずれてない?と疑問を呈したのが、この『だから日本はズレている』だ。
クール・ジャパン戦略、ネット・SNSの炎上騒動、おもてなし、強いリーダー、脱原発デモなど、まさに「今」の社会問題のズレを鋭い角度から「口撃」する。
この国の「大人たち」は、いつもどこかズレている。ジョブスのようなリーダーに憧れ、夢と絆で一つになれると信じ、「日本の良さ」は必ず伝わると疑わず、若者には変革を期待し、学歴や就活は古いと嗤い、デモSNSで世界は変わると訴える。
この「勘違い」はどこからくるのか?
(出典:『だから日本はズレている』)
日本の「勘違い」
この本では、日本の勘違い、つまり日本を牛耳る偉い人たち「おじさま」たちの勘違いを主題としている。『絶望の国の幸福な若者たち』が若者論だとするなら、この『だから日本はズレている』はおじさま論となる。
例えば、こんなズレを指摘する。
「ソーシャル」に期待しすぎるな
ここ数年、Twitter、Facebookなどのソーシャルメディアの利用者が爆発的に増えた。大企業や政府の「おじさま」がたは、なんとかこのソーシャルメディアを、生かして自分たちの活動を宣伝したり、商品を売ろうとする。逆に何か問題を起こし、炎上し、不買運動でも起こされたらたまったものではない。こちらも徹底的に防ごうと必死になる。
果たして、大企業や政府がここまでソーシャルに期待や恐怖を抱く必要はあるのだろうか?
ソーシャルメディアは「いいね!」や「リツイート」などで皆の「共感」を集め、情報を拡散していくメディアである。しかし、人が何かに共感するかどうかは千差万別でそれを狙って起こすことはなかなか難しい。むしろ、悪い情報が「いいね!」を集めて拡散してしまう危険性もある。
ほとんどの人は情報の真偽なんて確認せず(そもそも真偽に関心がない)、その情報がネタとして面白いかどうかで、それを拡散していってします。悪い拡散が広がってしまった例として、偏向報道、大量の韓流番組に対して批判が集まりフジテレビの前でデモが起きた例がある。記憶に残っている人も多いだろう。
このフジテレビの第一スポンサーだった「花王」に対して「花王不買運動」が起こってしまった。花王的には貰い事故であり、たまったものではないだろう。アマゾンで花王製品を見ると、何百もの批判レビューがならびまさに炎上した過去があった。
ネットの炎上は過大評価されている
しかし、このネットの炎上にそれほどの効果はあるのか。ソーシャルメディアと相性がいいのはせいぜい数千から数万の顧客を対象とする業界にしか効果がないという。「ネット」や「ソーシャル」をいくらうまく使おうとも既存のメディアを超えることはないという。
例えば、数万部売ればヒットなんて言われる出版業界なら、著者がツイッターで宣伝することに意味はあるが、数十万、数百万部の大ヒットを生み出そうとすれば、結局新聞広告や電車広告を打つ必要がある。
確かに、ネットから有名になったヒット作は数え切れないほどあるが、大ヒットまでとなると結局既存のメディアに広告を打っている。
実際に「花王不買騒動」では、花王の株価や業績になんの影響も与えていない。選挙では参議院議員選挙でホリエモン、三木谷浩史、東浩紀が応援した鈴木寛も、東京都知事選でホリエモンや田村淳が応援した家入一真も当選できなかった。
当選した舛添要一は200万票に対して、家入さんはわずかに9万票である。田母神さんですら60万票以上獲得している。
結局ネットやソーシャルの拡散や炎上は、「おじさま」がたを含めて全員が過大評価をしてしまっている。「期待」しすぎる必要もびびりすぎる必要もない。ネットは結局のところ「村社会」なのである。ここに一つ「日本」のズレがある。
このように日本のズレを指摘したのが、この『だから日本はズレている』である。デモで社会は変わらないし、新入社員は社会の希望だし、結局学歴は大切で、ノマドはただの脱サラである。そんな刺激的な「口撃」を受けたい人にはオススメの本である。
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