漫画ギーク記

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「マンガ大賞」歴代第1位作品全レビュー 2016年(第9回)ー2008年(1回)

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今年も「マンガ大賞」受賞作が決定した。

マンガ大賞は2008年から開始して今年で第9回目を迎る。

受賞作はほぼ全てがアニメ、映画などのメディアミクスされるなど大ヒット作品への登竜門となっている賞である。ここでの受賞から世間の注目を集めていった作品も少なくない。

そんなマンガ大賞の歴代「第1位」を過去作まで遡って全レビューをまとめてみた。

全作品を読んだが全てが疑う余地のない傑作である。

興味のある作品があれば手に取ってみてほしい。

 

そもそも「マンガ大賞」とは?

コンスプト:

 「面白いと思ったマンガを、その時、誰かに薦めたい!」

選考対象:

  • その年の1月1日から12月31日に出版された単行本。
  • 最大巻数が8巻まで。

選考員:

 書店員、フリーライター、新聞社編集などマンガに詳しい人達

選考過程:

 一次審査:各選考員が面白いと思った作品を5作品選出。得票数が多かった10作品をその年のノミネート作とする。

 二次審査:各選考員がノミネート作を全て読み、面白かった作品をトップ3選び、得票数が多かった作品を受賞作とする。

その他:

 第1回を除いて大賞作は、「受賞メッセージイラスト」を描いている。

 

歴代マンガ大賞受賞作

マンガ大賞2016(第9回) ゴールデンカムイ/野田サトル

 

かつてゴールドラッシュに沸いた北海道。

そこにはアイヌがひっそりと溜めた莫大な埋蔵金が隠されていた。

その額なんと8億円!

「不死身の杉元」。日露戦争での鬼神の如き武功から、そう謳われた兵士はこの莫大な埋蔵金を見つけてやろうとアイヌの地に降り立った。

しかし、その前に立ち塞がったのは脱走をした極悪な囚人、北の最強軍隊第七師団、大自然の猛獣たち。

生きるか死ぬかの戦いが繰り広げられる。

「不死身の杉元」はアイヌの少女やエゾ狼との出逢い、彼女らと協力して北海道の埋蔵金へと挑む。

アイヌ文化、グルメ、黄金を巡る戦いの要素が混じり合った作品。

 

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(出典:『ゴールデンカムイ』)

 

選考員によるコメント
  • 食べ物の描写が最高においしそう!伏線と回収が見事で、読んでてわくわくする作品です。あと、アイヌ文化のちょっとした説明が面白い。
  • 今期最も勢いのあるまんがと言っていいんじゃないでしょうか。アクションアイヌ飯冒険マンガと言うには説明が足りません。色んな要素がたっぷり混ざりあってるのに、散らからずに楽しめます。最初からフルスピードで読み手をぐいぐい引っ張っているのに、ますます加速するストーリーに目が離せません!
(出典:マンガ大賞)

 

受賞メッセージイラスト

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(出典:マンガ大賞)

 

マンガ大賞2015(第8回) かくかくしかじか/東村アキコ

 

人気漫画家・東村アキコによる自身の高校生・美大生時代や絵の恩師との関係を描いたノンフィクションの自伝コミックエッセイ。

美大に行こうかなと考え、本格的に絵を習おうと絵画教室に通い出す。

そこで出会ったのが日高先生だが、先生は竹刀を振り回して指導するとんでもない人だった...。

二人の師弟関係を描いた感動作で読むと、笑えるところは笑えたり、過去の自分への恥ずかしさで悶えたり、感動するところではジーンとくる作品。

読後には自分の恩師を思い出してしまうだろう。5巻完結済み。

 

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(出典:『かくかくしかじか』)

 

選考員によるコメント
  • 若さ故の甘酸っぱさと今の作者目線の突っ込みとの加減が絶妙。笑えて泣ける、このジャンルの金字塔になると思う。
  • とにかくおもしろいけど、その後ろにずっと切なさが漂っていて、泣く。人生ってこういうことだよなあ。って思ったけど、こんな人生そうそう無い。無いよ!
  • 東村先生の自伝。語り口調がとても染みます。 大バカな自分、ふがいない自分、それでも今こうして生きてる自分。 わかるなぁ・・・。
(出典:マンガ大賞)

 

受賞メッセージイラスト

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(出典:マンガ大賞)

 

マンガ大賞2014(第7回) 乙嫁語り/森薫

 

中央アジアを舞台とした遊牧民たちの物語。20歳の美貌の娘・アミルが嫁いだ相手は、若干12歳の少年・カルルクだった。8歳の年の差を越えて、ふたりは結ばれるのだろうか?

この作品はとにかく絵の書き込みが半端ではない!

はっと手を止めてしまうような鮮やかな絵が何度も登場する。

どれだけ時間を掛けたのかと驚愕してしまうだろう。他の「描き込まれているマンガ」とは一線を画する。

細部まで行き渡った取材を基に遊牧民たちの日常を艶やかに描き切った作品である。

絵だけでも一度見たほうがいい。連載中。

 

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(出典:『乙嫁語り』)

 

選考員によるコメント
  • 緻密で繊細に紡がれたストーリーと絵がまるでタペストリーのよう。素晴らしい!取り扱っているテーマ・時代はややマニアックですが、そこに描き出される人間の姿には現代人にも訴えかけるものがあると思います。とにかく登場人物たち一人一人が人間くさくてキラキラしていて魅力的です。
  • 雄大な自然の中で丁寧な暮らしを営む人々。自然や他の生物とともに暮らす毎日の中で、争うのは人間ばかり。そんな最新巻で、より「人として生きていくこと」を問いかけている気がします。動物や布、食べ物など画面のすべてを穴が開くまで見ていたい、そんな作品。

(出典:マンガ大賞)

 

受賞メッセージイラスト

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(出典:マンガ大賞)

 

マンガ大賞2013(第6回) 海街diary/吉田秋生

 

三姉妹に父の訃報が届いた。

母との離婚で長い間会っていない父の死に、なんの感慨もわかない姉妹たち。葬式の場に行くとそこには半分血の繋がった妹のすずがいて...。

三姉妹は、すずを加えて四姉妹となって新たな暮らしを始めた。

鎌倉を舞台に家族の「絆」を描いた切なく、優しい物語。

日々トラブルが起き、ぶつかり合い、修羅場もあるが協力し合って生きていく。

読後には自分の「家族の大切さ」や「青春」を思い出さずにはいられない名作。

連載中。

 

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(出典:『海街diary』)

 

選考員によるコメント
  • 恋愛や家族や友人など、他者と自己とのつながりを真摯に描いたまんが。どんな読み手にも必ずどこかに心に響く シーンや言葉があるはず。響きすぎることも多々あるので、外で読むのは注意が必要。
  • 読み終わっても近くに海があるような錯覚が続いている。実際にいそうな人達、ありそうな店、そんな街の描写も魅力。
  • 女四人姉妹それぞれにスポットライトを当てつつ、ゆるやかな時間の流れと、成長を丁寧に描く。非常に上質な作 品。鎌倉に行きたくなります。

(出典:マンガ大賞)

 

受賞メッセージイラスト

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(出典:マンガ大賞)

 

マンガ大賞2012(第5回) 銀の匙 Silver Spoon/荒川弘

 

都会育ちの八軒勇吾は、大自然に囲まれた北海道・大蝦夷農業高校に入学した。

理由は寮があるから、それだけである。しかし、授業が始まるなり子牛を追いかけて迷子になってしまう。高校の中でである!

大蝦夷農業高校のスケールの大きさは八軒の想像をはるかに超えていた。

同級生や家畜たちに支えられたりコケにされたり、都会育ちには想定外の事態が多すぎて戸惑いながらも日々奮闘する。汗と涙と土にまみれた酪農青春物語。

言わずもしれた『鋼の錬金術師』の大ヒット漫画家、荒川弘による作品。

農業高校を題材にした作品がまさかここまで面白おかしく読める日が来るとは夢にも思わなかった。

腕のある作家にかかればどんな題材だって素晴らしい物語に変わってしまうのだ。

八軒の青春に悶えずにはいられない。農業高校出身の荒川弘にだからこそ描ける圧倒的な物語。連載中。

 

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(出典:『銀の匙 Silver Spoon』)

 

選考員によるコメント
  • 農業高校での生活を描くマンガ。生きる、生かされる、命をいただく、労働する。普段の暮らしでは意識していない、自然の営みと人々たち。真剣で、コミカルで、おもしろい!小・中学生にはぜひよんでもらいたい。荒川先生はすごいです。
  • こ、こういう学園生活があったとは!みんな熱くて、真剣に将来を考えていて、そんな彼らがまぶしくてたまらない。自分もこの高校に入りたくなるくらい(笑)。すごく楽しくて元気が出る青春マンガです! 
  • 生きることは食べること、食べることは殺すこと。簡単で残酷な真理だからこそ、親子で読んでほしい漫画。

(出典:マンガ大賞)

 

受賞メッセージイラスト

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(出典:マンガ大賞)

 

マンガ大賞2011(第4回) 3月のライオン/羽海野チカ

 

中学生で将棋のプロになった桐山零は将棋界期待の若手ホープである。

「彼は将来「名人」になる」

将棋を知る誰もが零に期待をよせていた。

しかし、その少年は幼い頃すべてを失った。夢も家族も居場所も──。

この漫画は、そんな少年がすべてを取り戻すストーリーである。

将棋の棋士・桐山零の闘いと成長の日々を描く作品。

強さ、弱さ、優しさ、悲しさ。闘う者達の全てがこの作品には詰まっている。

愛を知らない零が愛されることで少しずつ自分の心を開いていく。

「喜怒哀楽」人間の感情に訴えかけてくる胸熱くなる傑作。

将棋に興味がない人にこそぜひ読んでほしい。連載中。

 

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(出典:『3月のライオン』)

 

選考員によるコメント
  • 切なくなったり、苦しくなったり、ほんのり幸せになったり...。読んでると心がぎゅっとつかまれてるよう な感覚になって、時々つらくなってしまうことも...。でも、零の成長していく姿、とりまく人たちそれぞれの思いを目をそらさずに見ていきたい。そんな作品です。
  • 登場人物の一人一人が発する一言一言のセリフに、真剣勝負の重みがズシリときます。しかし、そればかり ではなく、平凡な日常に救われるような温かさがありました。温かくて熱い一話一話を読むほどに引き込まれてしまいます。
  • このテーマで、それ自身に興味がない人をも読ませるストーリーはすごい。

(出典:マンガ大賞)

 

受賞メッセージイラスト

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(出典:マンガ大賞)

 

マンガ大賞2010(第3回) テルマエ・ロマエ/ヤマザキマリ

 

古代ローマの男が、現代日本の風呂へタイムスリップした!!

はっきり言おう。『テルマエ・ロマエ』はこのワンアイディアだけで作られたギャグ漫画である。

このコンセプトは最後まで変わることがない。

一見、単調なストーリーになってしまう気がする。しかし、これが過去に類を見ないほどめちゃくちゃ笑えるのだ!

古代ローマの風呂設計技師の好漢ルシウスが風呂の湯に浸かっていると何か妙な排水溝を見つける。この穴を覗いていると、突然現代の日本にタイムリープしてしまう。

驚愕の発想から生み出される爆笑エピソードの連続に圧倒されてしまうだろう。

笑いすぎにご注意を。全6巻完結済み。

 

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(出典:『テルマエ・ロマエ』)

 

選考員によるコメント
  • なぜか現代日本の風呂にタイムスリップしまくるローマの浴場設計技師。彼の真 剣さがほっこりとした笑いを誘う。
  • 素朴で親切な「平たい顔族」と、生真面目なローマ人との噛みあうようで噛みあってない、逆に噛みあってないようで噛みあってる会話や、現代でのルシウス のリアクションがいちいち衝撃的すぎます!フルーツ牛乳を飲んだときの表情ったら!絵柄の好き嫌いや表紙の買いにくさで敬遠されていてはもったいない!
  • 怪作!(笑)まじめな天然には勝てないわ?というか、おいおいそれは丸パクリだろう!という主人公の難問解決法に爆笑です。
(出典:マンガ大賞)

 

受賞メッセージイラスト

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(出典:マンガ大賞)

 

マンガ大賞2009(第2回) ちはやふる/末次由紀

 

『ちはやふる』は女子高生の綾瀬千早が、百人一首の女性チャンピオンである「クイーン」を目指す物語である。

百人一首といえば、学校の授業で習う古臭い和歌や、子供がやる「かるた遊び」とのイメージがある。

しかし、実は違った一面がある。「競技かるた」としての百人一首だ。

『ちはやふる』はそんな『競技かるた』としての百人一首の一面を描いた、汗が飛び交う青春ストーリーとなっている。

これでもか!と言わんばかりの百人一首の迫力は凄まじい。

それに加えて、登場人物達が織りなす人間ドラマがいい味を出している。劇中の名言がとにかく多い。

少女漫画なのに恋愛をしないことでも有名な作品。連載中。

 

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(出典:『ちはやふる』)

 

選考員によるコメント
  • か、感動しました!少女マンガでスポ根もの、しかもかるた競技の団体戦とは!ひとりの天才の物語というわけでなく、皆で努力して一つの目標に向かっていく、その頑張りに打たれました。キャラも絵も物語も、すべてが素晴らしい。
  • 競技かるたを題材にした、少女漫画と少年漫画的スポ根の幸せな結婚。主人公の真っ直ぐな想いがさわやか。
  • 「自分のことでないと夢にしたらあかん。のっかったら駄目や」「賭けてから言いなさい」涙腺殺し文句満載。
(出典:マンガ大賞)

 

受賞メッセージイラスト

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(出典:マンガ大賞)

 

マンガ大賞2008(第1回) 岳/石塚真一

 

三歩は山岳遭難防止対策協会のボランティアである。

山で遭難し下山できなくなった登山客を救助する活動をしている。

かつてはヒマラヤや南米の山を歩いてきた経験豊富な救助員で、困難な救助をも成功へと導いてきた。

『岳』にはそんな三歩の様々な山での救助劇が描かれる。

雪山で滑り落ちた人、崖で足を滑らした人などあわゆる登山客の救助に挑む。

だが、『岳』は決して三歩の活躍するレスキューマンガではない。

助からない登山客も大勢でる。

山や自然の「雄大さ」「尊さ」「美しさ」「恐怖」までもが表現されている。

この作品を読んだ後は山への「恐れ」感じてしまう。

しかし、同時に「憧れ」をいだき、登山に出かけたくなってしまうだろう。

全18巻完結済み。

 

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(出典:『岳』)

 

選考員によるコメント
  • 山岳漫画は数あれど、漫画という形式でしか表現しえない、と感じたのはこの作品のみ。これほど死にゆく人々を残酷に、容赦なく描き、それでいてヒューマンな感動を失わないのはすごいこと。実写でも、活字でも、同じようには表現できまい。それはひとえに、主人公・三歩の造形によるものだと思う。
  • 完璧です!これだけハッピーエンドとはいえない結末が多いのに心惹かれる作品はありません。現実に近いからでしょうね、きっと。自然を前にしたときヒーローは要らない。『畏れ』と『現実』を見据えればよい、そう思わせる1冊ですね。
(出典:マンガ大賞)

 

メディアミクス

マンガ大賞受賞作はアニメ化、実写映画化のメディアミクス化された作品が多い。

以下の図のようになっている。

 

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2014年『乙嫁語り』以前の作品は全てが実写映画化されている。

『乙嫁語り』以降の作品もなんらかの形でメディアミクス化される可能性は高いと言えるだろう。

逆に考えると実写映画化しやすいような作品が受賞しやすい傾向があるのかもしれない。

 

最後に

歴代「マンガ大賞」受賞作に関する記事をまとめてみた。

マンガの賞として毎年の話題となり、一定の地位を築いた賞であることは間違いないだろう。

1年に1作品しか選ばれないので、大賞へのハードルは高い。

しかし、このことが大賞作全てが面白いことを担保しているとも言えるだろう。

興味がある作品があればぜひ読んでみてほしい。