
才能があるから生きていくんじゃない。
そんなもの、あったって、なくたって、生きていくんだ。あるのかないのかわからない、そんなものにふりまわされるのはごめんだ。
もっと確かなものを、この手で探り当てていくしかない。
ピアノの調律に魅せられた一人の青年。
彼に注目し、調律師として、さらには人として成長する姿を描いたのがこの『羊と鋼の森』である。
ピアノの調律師といったちょっとした異世界を通じて、自分が何も持っていないと思っている青年の働く姿を見ることができる。
「2016年本屋大賞」大賞受賞作。
心温まる物語と通じて、自分の生き方、考え方、戦い方を考え直させられる小説。
「羊と鋼の森」の見どころ
ピアノ調律師に魅せられた少年
それは偶然の出会いだった。
そのとき、教室に残っていたとの理由で高校生で十七歳の外村は担任から来客の案内を頼まれた。
その人はピアノの調律師だった。
音のずれたピアノを調律し、本来の音を取り戻す仕事。少年はその巧みな技に魅せられてしまった。
ピアノの調律師としての道を歩むために、調律師養成のための専門学校へと二年間通い、 調律の技術を覚えた。
そして彼がこの仕事に就くきっかけとなった調律師のいる「江藤楽器」に就職をする。
江藤楽器
江藤楽器は、おもにピアノを扱っている。
社長の江藤さんはたいてい店にいないが、店には調律師が四人、受付と事務、営業、全部合わせて十名ばかりの小さな店だった。
半年ばかりの業務研修を行い、電話の応対、併設する音楽教室の事務、店に来るお客さんのへの対応などをしながら時間のあるときに調律の練習をする。
そして十分に調律の腕が磨かれると、実際に誰かの使っているピアノを見に行き、調律をする。
外村も新人ながら先輩について行くなどして、実際に誰かが使っているピアノを調律する機会が徐々に増えて行く。
そして数々の”思い”のピアノに触れることになる。
一人の調律師の成長
外村は周りにいる様々な人との関わりの中で、調律師としても人間としても成長をしていく。
かつてピアノのプロを目指していた先輩、ピアノと共に育った双子の姉妹などの生きる姿を見て、自分を鑑みてしまう。
結局、自分には調律師としての才能がない。
そんな葛藤を抱えながらも毎日、ピアノと向き合っていく。
誰もが感じている悩みが一人の青年を通して描かれいる。
終わりに
というわけで、『羊と鋼の森』を紹介した。
ピアノ調律師として生きる青年に焦点を当てた物語。
青年の成長や生き方を見ることができる。
自分の生き方を改めて考えさせられる心温まる小説となっている。