
高等小学校卒という学歴ながら「日本列島改造論」を引っ提げて総理大臣に就任。
比類なき決断力と実行力で大計の日中国交正常化を実現し、関越自動車道や上越新幹線を整備。生涯に30以上の議員立法を成立させるなど、激動の戦後政治を牽引した田中角栄。
だが、常識を超える金権体質を糾弾され、総理を辞任。その後、ロッキード事件で受託収賄罪に問われて有罪判決を受ける。
しかし、有罪判決後も長らく「闇将軍」として影響力を保った。
そんな、田中角栄の生涯を石原慎太郎が書いたのがこの『天才』である。
二人は政治家としては敵対をしていた。
そんな、石原慎太郎の目で見た”田中角栄”の姿が書かれている。
「天才」のここが面白い
一人称視点で進め物語
俺はいつか必ず故郷から東京に出てこの身を立てるつもりでいた。
生まれた故郷が嫌いという訳でも、家が貧しかったからという訳でも決してない。
いやむしろ故郷にはいろいろな愛着があった。
(出典:『天才』)
『天才』は田中角栄が書いた自伝のような形で、全編が一人称で語られている。
もちろん、本人が本当に思っていたことが書かれているわけではなく、石原慎太郎による想像による部分が大半ではあるが、あたかも本人が本当に思っていたことのように感じるほど文章がうまい。
石原慎太郎というフィルタを通した、田中角栄という稀代の政治家の人生を読み取ることができる。
田中角栄の人生
『天才』は田中角栄の幼少期から話が始まる。
政治家になってからだけではなく、政治家になるまでの学生時代や軍人の頃、仕事をしていた頃の話も書かれている。
そして、政治家に立候補し、総理となって死ぬまでが丁寧に語られる。
自分の子供のことや女性関係などにも言及がある。
この本、一冊を読むだけで田中角栄がどんな人物だったのかをひしひしと感じることができる。
政治家としての田中角栄
田中角栄と言えば、日中国交正常化や日本列島改造論、リクルート事件、ロッキード事件などを連想する人が多いと思う。
これらの出来事についてもこの本の中で余すことなく語られている。
特に日中国交正常化の部分は、本当に田中角栄が中国との交渉について記していたのではと思ってしまうほどに臨場感が溢れる描写となっていて面白い。
この本の中には若き頃の石原慎太郎も少し登場するが、石原慎太郎がどう見られていたと思っていたのかを田中角栄目線で書いているのが、不思議な感じがしてこれまた面白い。
あとがきには田中角栄への気持ちが述べられているが、敵対はしていても尊敬をしていたんだろうなとの石原慎太郎の複雑な心情を感じることができる。
終わりに
というわけで、『天才』を紹介した。
石原慎太郎の目線で書かれていた稀代の政治家・田中角栄の物語。
全編、田中角栄の一人称で語られる。
田中角栄についてや、石原慎太郎がどのように田中角栄を見ていたかを知りたい人にはおすすめの本である。