
夏休みを迎える終業式の日。
九歳の小学生・ミチオは先生に頼まれ、欠席した級友、S君の家を訪れた。
きい、きい。妙な音が聞こえる。S君は首を吊って死んでいた。
ミチオはS君が死んでいたことを先生に報告しに行くが、少し目を離した隙に、彼の死体は忽然と消えてしまう。
そして一週間後、死んだS君はあるものに姿を変えて現れた。「僕は殺されたんだ」と訴えながら。
僕は妹のミカと、彼の無念を晴らすため事件の謎を追いはじめた。
少年のひと夏の思い出を書いたミステリー小説。ファンタジーチックな要素もかなり強い。
事件が解明されるにつれて、恐ろしく不愉快な真相が近づいてくる。
「向日葵の咲かない夏」のここが面白い
少年・ミチオ
妹の遺骨の一部を、僕はいまでも大事に持っている。
当時僕が使っていた、背の高い硝子のコップに入れて、ラップをかけ、机の上に置いている。
それを見るたび僕は思い出す。小さな指を並べた、あの可愛らしい手。
ラテックスのつくり物のようにすべすべした、あのお腹。
死に際、 僕の膝の上で、全身を痙攣させながら、「忘れないでね」と言った彼女の、あの奇麗な丸い眼。
(出典:『向日葵の咲かない夏』)
この小説は小学生のミチオが友人の死体を発見したところから始まるが、このミチオもまともな人間には感じられない。
彼は、少し壊れている。
この小説にでてくる登場人物たちは、皆が少しづつの異常性を抱えている。
このことが小説全体の暗たんとした雰囲気を醸し出すことに一役を買っている。
生まれ変わったS君
「S君の、身体なんだけどさ――あれはいったい、どうなっちゃったの?」
「そんなの、僕が知るわけないじゃん」
S君は気の抜けたような高い声を洩らした。
「だって、死んだ瞬間、目の前が真っ暗になっちゃった んだもん。でも普通は、あれじゃないの?火葬場で焼かれて、骨にされて、お墓に入れられるんじゃないの?」
(出典:『向日葵の咲かない夏』)
S君は確かに殺されていた。ミチオだけだ宙づりになったS君の死体を見ている。
そして、S君の死体が消えてから少し経ったのちにS君は今までとはまったく違った形での生まれ変わるを果たす。
生まれ変わりも、この小説の一つの謎。
読んでいて不思議に思う部分が多々あるが、これらは物語の終わりに一気に解消されていく。
終わりに
というわけで、『向日葵の咲かない夏』を紹介した。
消えた友人の死体の行方を追う少年の、ひと夏の思い出を書いたミステリー小説。生まれ変わりなどのファンタジーチックな要素も強め。
暗い雰囲気の物語での不愉快な真相が隠された恐ろしい小説となっている。
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