
大学生の望月良夫は愛車のデミオ運転中に、偶然会った女優の荒木翠を目的地へ送り届けることになった。
ちょっとした非日常に浮かれていた良夫。
だが翌日、この翠が事故死してしまう。
これは、もうひとつの偶然か?本当に事故だったのか?
良夫とその弟で大人びた小学5年生の亨は、芸能人である翠のスキャンダルを追いかけ回していた芸能記者・玉田と知り合い、この事故に首を突っ込み始める。
しかし、このことが姉、母も含めた望月一家が巻き込まれていく、大きな騒動へと発展してしまうことになる。
タイトルに『ガソリン生活』とあるが、車たちも活躍する物語で、 人気作家・伊坂幸太郎による小説となっている。
「ガソリン生活」のここが面白い
望月一家の人々
この小説の主役である望月家の人々は、4人家族である。
大学生で20歳の兄・良夫、高校生で17歳の妹・まどか、小学生で10歳の弟・亨の兄弟と母で構成されている。
父親や亨が生まれた後に事故死してしまっていなくて、母一人で子育てをしてきた。
そんな望月家の人々の日常が、良夫が芸能人の荒木翠を偶然車に乗せたことをきっかけに崩れていくことになる。
彼らを襲うトラブルの数々に、一家で団結して取り組んでいくことになる。
おしゃべりで愉快な「車」たち
「なあ、デミオ」
駐車場で隣り合わせの青いiQが声をかけてきたのは、 店内にいる望月家が注文を告げ終えたあたりだ。
「やあ青iQ」と僕も挨拶をする。
途端にその隣や、近くにいる車たちから、「やあ」「よう」と声が飛び交う。
「デミオ、あのトンネル事故の話に興味はあるかい」
iQは言った。
「ないわけないだろう」とどこからか別の車の声がする。
「謎が多いしな」と言ったのは、さらに別の車だ。
「興味はあるよ。何と言っても僕 は、あの事故の前に、荒木翠を乗せた ばかりだったんだから」
このことを話すべきかどうかいつも悩むが、少しは告白してみてもいいのではないか、と僕は思った。
(出典:『ガソリン生活』)
この小説の中では、ディズニー映画の「カーズ」のように、車たちが話をしたり情報交換をしたりしている。
コミュニケーションは、車間でだけ行われていて、人間と車では話をすることができない。
愉快な車たちが、陽気におしゃべりを展開している。
この車たち同士の話や、望月家の車の一人称自体が面白く、事件解決のためのヒントが散りばめられている。
荒木翠の事故
良夫が女優の荒木翠を車に乗せた翌日に、彼女は車の事故によって死んでしまった。
事故はトンネルで壁にタイヤをこすって、ひっくり返ったというもの。
車は炎上して中にいる人は助からなかった。
彼女は事故を起こしたときに、彼女のスキャンダルを追う記者に後をつけられていた。
良夫と弟の亨は、この記者の存在を知ったことで事故に対して疑問をもつ。
これは、本当にただ事故だったのか?
かつて、パパラッチの執拗な取材により事故死したダイアナ妃のように、何か別の原因があるのではないのか?
しかし、このちょっとした非日常が、望月家の全員を巻き込んだ大きな事件へと変貌してしまう。
終わりに
というわけで、望月家の人々や所有する車たちの物語『ガソリン生活』を紹介した。
話の中に数々の謎が隠された、人気作家、伊坂幸太郎によるミステリー小説で、事故の隠された秘密が明らかになる。
物語は始まりの頃の雰囲気とは、全く違った方向へと展開してく。
愉快なおしゃべりをする車たちもまた、この小説の魅力のひとつ。
事件には、「車」が大きく関わる。
望月家の人々の非日常に興味がある人にはおすすめの小説となっている。
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