人がやっている行動や、築いてきた社会・文明によって生じた物事は、ほとんど昆虫が先にやっている。
狩猟採集、農業、牧畜、建築、そして戦争から奴隷制、共生まで、彼らはあらゆることを先取りしてきた。
繁殖行動も面白い。
相手と出会うためあの手この手を使い、贈り物、同性愛、貞操帯、子殺し、クローン増殖と何でもアリだ。
どうしても下に見がちな私たちの思考を覆す、虫たちのあっぱれな生き方を気鋭の研究者が存分に語ったのがこの本である。
昆虫に詳しくなれる、昆虫だらけの一冊である。
「昆虫はすごい」のここが面白い
地球は「昆虫」王国である
現在の地球には、いたるところにヒトの作った建造物が溢れて、あたかもヒトが地球の支配者のように振舞っている。
しかし、そうなったのは、せいぜい数百年から千年の間のことで、四十億年もある地球の生物の歴史から見たら、ほんの一瞬のことに過ぎない。
地球の真の支配者は「昆虫」である。
現在、地球上で発見されている昆虫は、百万種類を超え、動物、植物、菌類を含む全ての生物の半数以上を占めている。
特に、陸上生物では、昆虫が圧倒的多数なのだ。
ある熱帯地方の調査では、アリだけを全て集めた重さは、脊椎動物の総量を超えているという。
さらに、百万種類というが、これはあくまでも見つかっている昆虫の数であり、実際にはこの二〜五倍の種類の昆虫がいると言われている。
新種も毎年、次々と発見されている。
このように、地球は実は「昆虫王国」なのである。
そして、これだけ多様性にあふれているので、たくさんの面白い昆虫たちがいるのだ。
どうして、ここまで多様なのか
昆虫は、どのようにしてここまでの多様性を持つようになったのか?
それは、「飛ぶこと」と「変態すること」 が理由である。
昆虫の中の99%は、飛ぶことができる。
昆虫は、地上で初めて、空に飛び立った生き物であり、その時期は、鳥の祖先の翼竜の少なくとも1億年前だと言われている。
飛べることによって、天敵から簡単に逃げられるようになった。
そして、移動距離が長くなることで繁殖する相手が見つけやすくなった。
このことが、昆虫が多様性を持つようになった一つ目の理由である。
もう一つが、「変態すること」である。
”変態”とは、チョウのように、幼虫から蛹になって、成虫になることである。
その姿は、同じ生物だとは思えないほどに、全く違う形をしている。
それぞれの期間で、昆虫は違った役割を果たしている。
卵から孵った幼虫は、あまり移動せずにとにかくひたすらに草を食べ続ける。
幼虫は体を大きくする期間である。
そして、体の形を作り変える蛹の期間を経て、成虫になる。
この成虫の頃は、繁殖相手を探す期間で、移動距離は長くなる。
昆虫は、体の形によってすぶべき役割が違ってくる。
”変態”は昆虫にとっての賢い、生存戦略なのである。
このようにして、昆虫たちは、地球の支配者と言えるほどの多様性を獲得してきた。
”農業”をする昆虫たち
農業は、人類にとっての大発明であり、農業によって安定的に食料を確保できるようになったために、人類は発展してきた。
人類が農業を生み出したのは、ここ1万年くらいの話であるのだが、なんと8000万年前から農業をしていた昆虫たちがいる。
農業を行う代表的な昆虫は、キノコを育てるキノコシロアリ亜科のシロアリやハキリアリ属のアリである。
ハキリアリの場合、植物の葉を切り取り、巣に持ち帰って、そこに菌を植え付ける。
この菌が貴重な栄養素になる。
その、栽培方法にも驚くべきものがある。
ただ、菌を栽培しているだけだと、土の中は雑菌にあふれて、カビなどによって菌はあっというまに絶滅してしまう。
ハキリアリの胸部には、特別な共生バクテリアが付着しており、それが余分な微生物の成長を抑える抗生物質を分泌している。
これは、まるで人間の使う「農薬」のようである。
昆虫たちは、人間の農業のように知恵を振り絞って農業をしているのだ。
終わりに
というわけで、昆虫について書かれている本である『昆虫はすごい』を紹介した。
今回紹介した、”農業”をする昆虫以外にも、牧畜、建築、戦争、奴隷制など、様々な性質を持った昆虫たちがいる。
百万種類を超える多様な生物であり、それだけに面白い昆虫たちがたくさんいる。
面白すぎる「昆虫たちの生態」に興味のある人には、おすすめの本となっている。
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