
負け戦のときに、最後列で敵を迎え撃つ者たちを「しんがり」と言う。
自らを犠牲として、最後まで戦場に残って味方の退却を助けるのだ。
四大証券の一角を占める山一證券が自主廃業を発表したのは、1997年11月のことだった。
店頭には「カネを、株券を返せ」と顧客が殺到し、社員たちは雪崩を打って再就職へと走り始める。
その中で、会社に踏み留まって経営破綻の原因を追究し、清算業務に就いた一群の社員がいた。
潰れる会社に残って、奉公しても得られるものは何もない。むしろ、再就職のチャンスを逃して窮地に陥るかもしれない。
それでも、彼らを動かしたものは一体何だったのか?
山一證券の「しんがり」たちの姿が明らかにされたノンフィクションの本である。
「しんがり 山一證券最後の12人」のここが面白い
山一証券の自主廃業
その日の日本経済新聞は朝刊 一面の大半を使って、〈山一證券自主廃業へ 負債3兆円、戦後最大〉とすっぱ抜いていた。
テレビニュースはそれに追随し、午後になっても繰り返し、老舗証券会社 の破綻を告げていた。
(出典:『しんがり 山一證券最後の12人』)
山一證券は、積み重なった負債や法令違反を原因として、自主廃業に追い込まれてしまった。
四大証券の一角を占めていた山一のその唐突なニュースは、一瞬にして日本中を驚きとともに駆け巡る。
実際に、会社の役員ですら日経の「世紀の大誤報」と言っていた。
しかし、報道は真実だった。
なぜ、会社が潰れることになってしまったのか?
そこには、帳簿外に借金を隠している2800億円もの「簿外債務」が関わっていた。
社長らトップによるこの犯罪行為が、山一證券のとどめを刺した。
経営破綻の真実
この簿外債務のことは、役員クラスをはじめとして、ほとんどの社員が全く知らなかった。
会社が潰れることは、もう避けられずに、優秀な社員たちは山一を諦めて、次の会社を探し始める。
しかし、ここで「簿外債務」がどのようなプロセスで作られたのかの疑問が残る。
その中で、会社に踏み留まって経営破綻の原因を追究し、清算業務に就いた一群の社員がいた。
彼らは、会社が潰れるまでの短い時間の中で、真実を求めて動き始める。
山一が潰れた後には、二度とこの疑問を解消することはできない。
得られるものは何もない中で、山一證券の最後まで戦う「しんがり」役として、彼らは会社の秘密を暴きにかかる。
終わりに
というわけで、『しんがり 山一證券最後の12人』を紹介した。
自分の信念のみを手掛かりに、最後まで戦い続けた人々の姿が描かれている。
山一證券廃業の裏には何があったのかが、丁寧に記されているノンフィクションの本である。
「しんがり」たちの戦いに興味がある人には、おすすめの本となっている。
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